朝日新聞(4/5)会長投稿

医療の消費税問題を問う


 4月から診療報酬が引き下げられた。一部を窓口で負担している患者さんにとっては、これまでより負担が軽くなるケースも出てくる。一方、医療機関側にとっては、医療の質を維持するために、さらなる努力が求められることになる。

 だが私はそれ以前に、医療における消費税のあり方について考えてみるべきだと思っている。診療報酬をさらに引き下げうる余地がそこにあるからだ。
 89年の3%消費税導入に際し、政府は医療には消費税をかけないことを国民に約束した。しかし、医療機関では薬や給食食材などの仕入れ、検査センターへの支払いなどに消費税がかかるので、それに見合う分と称して診療報酬の一部が引き上げられた。
 具体的には薬代の2.4%(医療費換算0.65%)引き上げ、給食費の10円引き上げ、5〜7項目の血液化学検査の50円引き上げなどである。そのため、消費税導入後に医療機関を受診した患者さんは、例えば診察と理学療法を受けるだけなら従来と変わらないが、血液検査を受けて薬をもらうと、従来より負担が増えることになった。つまり、消費税を内税という形で払わされることになったのである。
 この額は医療内容によって変わるが、平均して0.76%。あまり大きな負担増ではなかったが、医療に消費税はかけないという公約違反があったことは確かである。
 これに対し、医療機関にとってはこの程度の診療報酬引き上げでは、消費税の負担を補うことはできず、いわゆる「損税」が発生することになった。
 97年に消費税が5%に引き上げられると、診療報酬はさらに0.77%引き上げられ、本来の医療費より1.53%アップになった。これによる支払い側の負担増は現在、およそ年間5千億円になる。また、医療機関の損税は日本病院会の02年の調査によると、非課税売り上げ(保険収入)の1.32%で、これは1病院あたり年間7482万円にもなり、経営上ゆゆしき問題になってきている。
 昨今、ポスト小泉の政治課題として俎上俎上そじょう(そじょう)にのっている消費税が引き上げられれば、患者負担はますます増加するだろうし、医療機関は経営困難になるだろう。

 わが国の医療費は先進諸国に比べて安いが、患者負担は一番高い。無保険者の多いアメリカを除けば原則として医療費は無料で、3割負担をしている国などどこにもない。
 政府には、まず当初の約束に戻って、医療から消費税をなくしてほしい。そうすれば、薬価や診療報酬は下がり、患者負担を軽減できる。そして、医療機関に対しては仕入れ品の消費税を廃止するか、それが煩雑なら「戻し金」にして消費税分を還付するのが公正なあり方ではないかと思う。
 その財源は、大型公共事業の縮小や、無駄遣いの甚だしい外郭団体を整理するなどすれば十分に対応できるはずだ。


平成18年4月5日  熊本県保険医協会会長 上塚 高弘